さて、初めてコースへ出て全く思い通りに打てなかった私は発奮して従来以上に練習に熱が入ってきた。
平日の会社の帰りには毎日練習場へ通い、毎週土曜日はコースでラウンドし帰宅してから練習場へ行き当日の反省を行ない、日曜日は午前中と午後と2回も練習する、という実にハードな練習を繰り返してきた。
1回の練習につき200発は打ち込んでいるので、相当な数を打っていることになる。
私はこれまで運動らしい運動はしたことがない。小学校、中学校で陸上の短距離をやったのみで、高校に入ってからは運動はピタリとやめバイクとタバコの毎日であった。それだけにこれほどの運動を毎日繰り返すというのは中学校卒業以来なので、実に25年振りである。
その効果(?)はすぐに表れてきた。
体のあちこちが痛くなってたまらないのである!
まず最初に痛くなったのは左の胸。左側の肋骨が痛くてたまらない。ひどい時は息をするのさえ痛みで苦しく感じたものである。この状態が1週間も続き流石にまいってきた。でも練習は毎日続けたのだから我ながら大したものである。(こんな時に練習をするなんて実はアホなことなのだが・・・)
流石に気になったのでインターネットで色々と調べて見る。「ゴルフ、肋骨の痛み」で検索すると、何とこれがまた多くの記事が出てくるので片っ端から読んで見た。そうすると恐ろしいことに「疲労骨折」という現象があることが分かった。これはゴルフの練習を急に激しくやった場合、肋骨を繰り返し曲げることになるので徐々に肋骨にヒビが入ってしまうというもの。ちょうど針金を何度も繰り返し曲げているとポキッと折れてしまうのと同じ現象である。まさしく今の私の状態と全く同じである!
こうなった場合は大人しくして自然回復するのを待つしかなく、ゴルフの練習なんてもってのほか! 通常2ヶ月はじっとしていなくてはならない、と書いてある。これにはまいった!既に毎日練習するのが日課であり楽しみである私にとって、2ヶ月もゴルフが出来ないなんて地獄である。あわてて病院へ行って見ることとした。
行ったのはオーチャード高島屋の向かいのPARAGONというビルにある日本人向けの病院「ジャパン・グリーン・クリニック」である。そこの受付で「ゴルフのやり過ぎで肋骨が痛いのですが・・・」と言うと外科の方に案内された。
呼ばれて入って見たら中にいた先生は中国系シンガポーリアンの「R先生」である。年は私と同じ位の40才くらいであろうか。「英語で説明するのか、まいったな・・・」と思っていたが、驚いたことにこのR先生、日本語がペラペラである。聞いたら日本の大学に留学し医学を学んだとのこと。良く見ると部屋には日本のある有名な医科大の卒業証書がちゃんとある。
いつも思うのだが、シンガポーリアンに限らず韓国、台湾といったアジアの方々は日本語を覚えると実に上手に話す。この語学の才能と努力には見るべきものがあると感じる。
さてR先生に状況を説明し、まずはレントゲンを撮ることになった。どきどきしながら結果を待つと、結論は「何でもありません。ただの筋肉痛だよ。肋骨と肋骨の間に薄い筋肉があってそれが痛んでいるんだろう。放置しておけば治るよ」と言われ、ほっと胸をなでおろした。
このあとは「君はゴルフを最近始めたの?」とゴルフの話題になった。このR先生、これまたゴルフ大好きだそうであり、部屋にはゴルフコンペの優勝トロフィーが数多く並んでいた。「誰でも最初は練習し過ぎて胸が痛くなるものだよ」と言われ、安心して帰宅したのであった。ただもう1つ言われたのは「これはほんの序章に過ぎない。ゴルフを続けていると左胸から次は右胸、肩、手、と体中が順繰りに痛くなるから、その覚悟でいるように。それが終えたら一人前だ」ということであった。
残念ながらR先生の言うとおりであった。最初の左胸の痛みは数日で消えたのだが、次には右胸、その次には肩、手の筋肉と確かに言うとおり痛くなり、そのたびに1週間はひどい目にあったのである。しかしこれは半年ほどで一回りし、その後は痛くなることは少なくなった。これで一人前になったのであろうか。
ここで余談だが最初に左胸が痛くなりレントゲンを撮った時より約2ヵ月後、今度はまた左のわき腹が痛くなり、これまた耐えられない痛みであったので今度こそ疲労骨折か、とまたレントゲンを撮りに行ったのである。その時も結局ただの筋肉痛であったのだが、レントゲン撮影時に先生方が眉をしかめながら集まってきてモニターを覗いているではないか。
何かいや~な感じで診察結果を待っていたらR先生に「君は腹の痛みが時々出ることはないか」と聞かれたのである。「ありません」と答えると「ふ~む・・・、おかしいな、胆のうが白く写っているんだがこれはもしかしたら胆石の影響かもしれない。近くの病院を紹介するからCTスキャンをとってきなさい」と言われてしまった。
恐る恐る同じビルにある他の病院へ行きCTスキャンを撮ってまたR先生の所へ戻ると、見事「胆石」が写っていたのである。しかも3センチはあろうかという大きなもの。
「こんな大きな胆石があって本当に痛みがなかったの?」とR先生も驚いており、「これまでの人間ドックで引っかからなかったのか」と言っていた。実は千葉県にいる頃何度か人間ドックで同じように胆のうが白く写ることがあったが、再検査でも当時の先生は原因が分からず「様子を見よう」ということで5年以上も放置されていたのであった。
それを聞いたR先生、「それは何と言うヤブ医者だ!」と怒り狂ったのも無理はない。
この胆石というやつ、放置すると突然痛みだし、その時の痛みたるや想像を絶するものである非常に危険なものだとのこと。
いや~、でも日本の先生が何回か診察して見抜けなかった胆石を一発で見抜いたR先生、さすが名医であると感心した次第であり、今でも心より感謝しているのである。
ちなみにこの胆石はR先生の勧めによりすぐ入院し摘出した。その詳細は「生活体験記」の「胆石で手術・入院」に記載しているので参考にされたい。なお、この胆石を見抜けなかったのは、千葉県の京成電鉄の船橋と津田沼の間の、谷津駅前にある「Y保険病院」である。もうあんな病院には絶対に行くものか!
なにはともあれ、ゴルフのおかげで胆石を発見出来たので、ゴルフを始めて良かった、と今でもしみじみ思う。
(2003年10月5日)