指定席

指定席というと電車の座席指定を思い出すが、ここで話す指定席とはゴルフ練習場の打席のことである。通勤電車に乗るといつも同じハコの同じ席に座る方も多くみられるが、それは彼らの指定席なのであろう。私も日本にいる時はいつもそうであった。

ゴルフ練習場においても然りであり、私を含む常連さんはいつも大体同じような場所で練習している。ただ、ゴルフ練習場は多くの人が来る為、毎回いつも全く同じ場所ということは不可能で、入って左側の真ん中寄り、というのが今の私の好む打席である。

しかし私がゴルフの練習を始めた2年半前の頃はいつも同じ場所で練習していたものである。
その席とはマリーナサウスの練習場2階、入って一番左奥、左端の打席である。
こここそが私がゴルフを始めて半年以上愛用した「完全な指定席」であった。

ではなぜそこが指定席であったのか。
それは簡単で、全くの初心者であった私はとにかくマトモにボールに当てられない。いつもボコッ、ベコッという変な玉。慣れてきてもダフリ、トップがまだまだ多く、とても人様には見られたくないようなヘタクソであったからである。そのような状況で普通の人たちに両側を囲まれて練習するには流石に恥ずかしく、探したのがこの左端の打席だったのであった。左端なので後ろには誰もいない。前には多くの人が並ぶがレフティーでない限り皆、向こうを向いているのだ。

つまり私がいかにヘタクソな玉を打とうが誰も見ていないので、思う存分自由気ままに練習出来たのであった。

あの頃はとにかくボールに当てることに専念していたので、毎日会社の帰りにはここへ直行し、この左端の指定席で買ったばかりの新品のキャロウエイ/ビックバーサアイアンを振り回して、必死になって200~300発は打ち込んだものである。

流石に半年もそれを繰り返すとそれなりにちゃんと当たるようになってきたので、徐々に打席を打ちやすい中央寄りに移すようになり、今ではほぼ真ん中で打つようにしている。そうしていつの間にか左端の指定席を使うことはなくなってしまった。

この左端の元指定席は普段は空いており、よほど混雑して日でない限りは誰も使っていない。でも時々すいているのにかかわらずここで練習している人を見かけるが、やはり当時の私と同じ全くのビギナーであることが多い。たぶん同じ気持ちで練習しているのだろうと思うと、思わず「頑張れ」と応援してしまうのだ。

ゴルフを始めて2年半たった今では以前のように毎晩練習に行くことはなく、平日はせいぜい週2回程度となっている。その時には更衣室で着替えることになるが、このマリーナサウスの更衣室は左端の奥に位置している。
到着して着替えに行く時にはこの左端の打席の前を通るが、誰も使っていないひっそりしたその打席を見るたびに毎晩その場所で1人でボールと悪戦苦闘していたあの頃を懐かしく思い出すのである。

このもっと左側が以前の指定席

(2004年11月2日)