チャンギ博物館と東海岸

◆チャンギ博物館◆

私がシンガポールに来て間もなく単身赴任をしていた2001年10月のことです。
主な観光地を見回っていた頃ですが、たまにはちょっと変わった所を見たいと思い探していたら、シンガポール東部のチャンギ空港近くにチャンギ博物館(戦争博物館)というのがあると知り、カメラをかついで見に行くこととしました。早速道路地図を見ると、チャンギの日本人小学校の前の道を少し先に走ればあることが分かりました。

戦争中は実に多くの連合軍捕虜が日本軍の手により、チャンギ刑務所に収監されていたようです。そこではかなりの虐待がなされていたようで、一方捕虜たちは慰めのために自ら礼拝堂を刑務所内に作っていたようです。終戦後も刑務所内にその礼拝堂が残され、また記録として現在の博物館が作られました。その博物館と礼拝堂が2001年に刑務所外の現在の場所に移設になったとのことです。

その日は非常に天気が良く暑い日でした。車のエアコンを強くしてまずチャンギ小学校まで行きます。その前を通り過ぎて5分も走ると間もなく右手に大きなチャンギ刑務所があります。ここはシンガポールで一番大きな刑務所で、結構な凶悪犯が収監されているようでした。そこを過ぎると間もなく右手にそれらしき小さな建物が見えてきたので、そのCarParkに車を止め中に入ってみます。


チャンギ博物館は非常に小さな建物ですが、入り口の向こう側になぜか屋根のない教会らしきものがありました。正面に小さな十字架がありお祈りする椅子が並んでいます。なんでこんなオープンな教会がこんな所にあるんだろう、と不思議に思いました。後で分かりましたがこれが礼拝堂です。

礼拝堂

正面の十字架

正面の十字架がある所へ行ってみます。そこには恐らく仮のものと思われる小さな十字架と色々な花の飾り付けがありました。横の壁面を見ると実に多くのメモが貼り付けてあります。これらは戦争中に捕虜として刑務所に収監されていた連合軍の人たちの子孫が書いているようです。

多く貼り付けられていたメモ


さていよいよ隣のチャンギ博物館に入ってみます。ここは別名「戦争博物館」と言い第二次世界大戦中の記録が残っているとガイドブックには書いてありました。入場は無料です。
エアコンの良く効いた建物に入るとすぐ、両側の壁面に何やら大きな地図が貼ってあります。良く見ると戦争中のアジアにおける日本軍の攻撃ルートが大きく記されています。反対側の壁面にはシンガポール、マレーシア近辺の拡大地図が3枚ほどあり、時系列に日本軍がどのように侵略してきたかが示されています。
日本軍の侵略した場所には大きな日の丸が記されており、如何にも無理やり侵略されたという雰囲気がただよいます。ここで既に日本人としては非常にイヤな気分になってきます。

日本軍侵略の地図

次にそのまま奥へ進みますと両側の壁面に拡大した戦争中の本物の写真とヘルメット、機関銃などの本物が並んでいます。その写真を見て驚きました。全て日本軍による連合軍捕虜への虐待の写真であるからです。捕虜を縛り上げて引き回している写真や、最もひどいのは捕虜のさらし首の写真まで掲示されています。

これらの写真は如何にシンガポール始めとしたアジア諸国・捕虜たちがが日本軍によって虐げられたか、を直接的に表現し現代のシンガポーリアンにもこの事実を決して忘れないようにさせる、という意図がみえみえです。これはこの博物館に限らず、セントーサ島の博物館など多くの場所に侵略の歴史、経緯、写真、石碑などが残っています。現にシンガポールでは現在でも学校教育で戦争中の日本軍の侵略の歴史を教えているそうです。

シンガポールというと現在では日本人にも人気のある観光地ですが、実際には彼らは昔の虐待の事実を忘れることがないように記録を残しているのです。もちろん現代のシンガポーリアンは戦争経験者は既に少なく、日本人に対しては好意的な人が多いのですが、我々日本人としてはこうした事実を頭の隅に置きながら対処する必要があるのだな、としみじみ感じました。

更に奥に進むと今度はキリストの絵がいくつか飾ってあり何とも幻想的な雰囲気になっています。しかし日本人としてはこの建物の中に長くいるのがちょっとつらくなってきたので、すぐに出てしまいました。このチャンギ博物館はあまり気分のいい場所ではありませんが、一度は見ておいた方がいいかと思います。

キリストの絵

◆ジョホール砲台◆

さて次にはちょっと奥に進みます。すぐ右手に「ジョホール砲台」との看板があります。
この看板は英語だけでなく、何と日本語でも表示されています。おもな観光地の看板でも来た当初は英語の看板でしたが、最近は日本語の表示も多く見られるようになりました。新しく引っ越したマーライオンなどにも日本語表示の看板があります。如何に日本人観光客が増えているかの証明みたいなものです。

ジョホール砲台

さてこのジョホール砲台、実際に戦争で使われた本物の砲台が残っています。しかし砲台そのものは綺麗にペイントされています。近くまで歩いてみると意外と大きいことに驚きます。説明書を見ると口径15インチ(38センチ)、砲身長さは16.5mもあるとのことです。戦艦大和の砲身と同じ位ですね。第二次世界大戦ではイギリス兵によりシンガポールを守るために使われていたようです。

ジョホール砲台の説明書

近くで見るとこんなに大きい

◆East Coast Park◆

しばらくみた後そこを去り、最後は East Coast Park に向かってみます。
この公園は名前通りシンガポールの東海岸に長く続く海沿いの自然公園となっており、市民の憩いの場です。行ってみると多くの人がサイクリングしたり散歩、ジョギングしたりしており実に平和な公園でした。所々にはシーフード・レストランなどが固まっている場所もあり家族で来たら楽しいだろうなあ、と思いました。
車を止めて海岸に向かい歩いてみます。海風がとても涼しく最高の気分になれます。木陰にはベンチがありそこで涼みながら読書をしている人たちが多くおり、午後のひとときをのんびり過ごすにはいい場所でありそうです。

East Coast Park

海岸近くには遊歩道があり、その更に内側にはセンターラインが引いてある細いアスファルトの道路がありました。何だろう、と思っていたら、それはサイクリングの専用道路であることがすぐに分かりました。見ていると子供たちや家族連れがどんどん自転車で走ってきます。実に健康的でのんびりした風景でした。私は海岸沿いに座り、ボケーッと海を見ながらタバコを一服。これまた実に快適、平和な気分でした。

自転車専用道路

これだけで半日かかりました。チャンギ近辺にも色々と見る所があるものです。この時は単身赴任につき1人で行きましたが、今は家族が来ていますので時間を見つけて一緒にまた行ってみたいと思います。

(2004年9月1日)