ダービーとは競馬で最も有名な重賞レース(クラシックレース)です。対象はまだデビューして間もない若い馬(4才馬)で、ダービーに勝つことはすなわち日本一を意味するという極めて名誉なことです。これまでにも歴史に残るような名勝負も数多くありますが、一方、絶対的に強いと言われながらもついにダービーで勝てなかったハイセイコー(3位)の例など、悲劇的な話も多くあり、とにかく常に話題にのぼるレースです。
そのダービー馬も現役を引退したあとは牧場に戻り、種馬としてのんびりした余生を過ごします。そしていつかは亡くなりますが、通常の馬は亡くなった後、馬肉として加工されるという悲しい現実のもと、さすがにダービー馬など重賞レースを制覇した馬は別格扱いで専用のお墓を作られることになります。
未だに記憶に残っているのは悲劇の名馬と呼ばれたテンポイントです。
テンポイントはダービーは勝てませんでしたが、1976~77年当時、トウショウボーイ、グリーングラスと並び三強と呼ばれた名馬で、特にライバルのトウショウボーイには1976年の有馬記念では負けて2位になったものの、翌年1977年の有馬記念では競馬史に残る名勝負をトウショウボーイと行ない、とうとう勝って優勝したという根性のある馬でした。しかしその翌年、華々しく海外へデビューする直前の国内レースに無理やり出場させられ、そこで無理がたたって骨折し、懸命の介護の甲斐なく亡くなったという悲しい馬でした。(サラブレットの骨折は命に関わる致命傷なのです)。
その時は北海道の牧場にお墓が作られ、数多くのファンがひっきりなしにお墓まいりに北海道まで押しかけたという社会現象にまでなりました。未だにここには多くのファンが訪問しているようです。
このように名馬のお墓というのは貴重な存在なのです。
ところで私が住んでいる千葉県成田市の団地は千葉県住宅供給公社が分譲した新興団地なのですが、この団地の真ん中には小さな牧場があるのです。初めて行った時には「えっ? 牧場?」と驚きましたが、古くからある牧場のようで、後から我々の団地が出来たものです。いざ住んでみるとその牧場には種馬と思われる老馬がおり、のんびり草をはんでいました。また、団地の中にこれだけの広い面積の緑があるということで、慣れればなかなかいい環境であり、良くその周辺を散歩し馬を見たりしたものです。
自宅の団地の牧場
しかし私がシンガポールに赴任し約4年ぶりに戻った昨年にはもう馬はおりませんでした。聞いた所、その馬は我々が不在の間に亡くなったようで、それを機会にその牧場は閉鎖され、今ではその跡が残っているだけなのです。
ところが! ところがです!
ごく最近知ったのですが、その馬とは、何を隠そう有名なダービー馬であったことが判明しました!
その馬とは、1983年にダービーで優勝したミスターシービーだったのです。
ミスターシービー(1983年 第50回ダービー)
驚いて調べてみたら、ミスターシービーとはかつてない程の最強の名馬であり、1983年にはダービーの前の皐月賞で優勝しダービーでも優勝し、なおかつ秋の菊花賞でも優勝するという、競馬史の記録に残る三冠馬でありました。
この三冠馬というのは、古くは有名なシンザンが達成し以降19年もの間、達成されることのなかったものですが、それを達成したのがミスターシービーだったのです。血統も素晴らしく、先に述べた名馬トウショウボーイの子供でもあります。
とにかくミスターシービー、もうメチャクチャに強かったようで、強引に外から追い上げて先に走る馬たちを最後にぶち抜いて勝つという離れ業を何度も演じたとのことでした。
本当にこんなに有名な馬がこの牧場にいたのか、と半信半疑でこの休日に見に行きました。
早速カメラをかついで見に行きます。この牧場は今は人もいないので、そのまま無断ですが中に入っていきました。
まず目に付くのはひと気(馬気?)のない馬小屋です。意外と大きく馬が数頭は入る大きさでしょうか。ここに往年の名馬ミスターシービーがいたと思うと、感慨深いものがあります。
その写真を数枚撮影したあとは、いよいよお墓を探します。場所的には牧場跡地の奥の方にあるらしいので、わくわくしながら行ってみます。
ひっそりした馬小屋
そうしたら、ありました!
奥の方、住宅のすぐ脇に何やらお墓がありますので、走って行って見てみました。それは案の定、ミスターシービーのお墓でした。
石碑とともに横には「故 三冠馬 ミスターシービー号の墓」と書いてあるではないですか。地面は盛り上がっているので、本当にそこにミスターシービーが埋められているのでしょう。一世を風靡したダービー馬、三冠馬のお墓に感動し、思わず目を閉じて冥福を祈りました。見ると花も飾られておらず、とても寂しげなお墓でした。
奥にあったお墓
故 三冠馬ミスターシービー号の墓
それにしても千葉県のこんな所に、しかも灯台下暗しとは良くぞ言ったもの。こんな身近にダービー馬のお墓があるとは知りませんでした。しばらく拝んだ後、名残惜しいですが家に戻りました。
本日は花を持ってこなかったのでちょっぴり後悔。次回はまた来て花を添えようと思います。
牧場から帰るところです
(2006年6月6日)
(2024年4月18日追記)
昨年2023年夏にこの牧場の周囲を散歩していた所、カメラを持った学生さんに「近くの方ですか」と話しかけられました。「そうです」と答えるとその方は大学生で馬が大好きで、伝説のダービー馬ミスターシービーのお墓がここにあると聞いて、わざわざ花とニンジンを持って埼玉県の大宮から電車を乗り継いでお参りに来たとのことでした。「この牧場の中にお墓がありますよ」とお答えしたので、その後お参りしてお帰りになったと思います。今でもこのようなファンの方がお見えになるのですね。
目立つ看板を立てるなど、もう少し宣伝しても良いかと思いました。